Masuk「…さん?」 …ん?誰かに呼ばれてる? 光の奥から声がして、意識がハッキリして来たと思ったら目の前に知らない女性のドアップ。 「ふみぃーっ!?」 「きゃあっ!?」 驚くよね。私も驚くけど相手も当然驚くよね。 二人で一歩後ろに下がり、きょとんとして向き合って。その光景が何だかおかしくて笑い合った。 「本当に大丈夫なの?具合が悪いとか?」 目の前の女性は私に心配気に言った。 でも、まぁ、体調が悪い所はないから。 「ううん。大丈夫。ありがとう。ついぼーっとしちゃった」 えへへと笑って誤魔化すと女性もふふっと笑って答えてくれる。 「駄目よ、仕事中にぼーっとしちゃ。なぁーんてね。その気持ち解るわぁ~。今日だもんね。奥様の出産予定日」 女性は嬉しそうに微笑んだ。 …奥様って、誰? うふふふっ。にっこり笑いつつも内心冷汗だーらだら。 そもそも私今何処にいるのっ!? ちょっとおさらいしようか? 私は優兎くんを助け出し、優兎くんが私達の為に薬に抗ってくれていて、そんな優兎くんをとにかく休ませてあげようとベッドに寝かせて、看病している最中に私も眠くなって。 夢を見てたんだよね。 優兎くんの記憶を弄っている薬の効果が解るような夢。 で、ただ何もない空間になって、そこに落ちていたジグソーパズルを組み立てたら光が……うん。おさらいしてもさっぱりわからんっ! どう言う状況?これ。 「家政婦って仕事、こう言う時にやりがいを感じるよね」 「そうねぇ」 つい咄嗟に答えてしまったけど、そっか。私今家政婦なのね? …私って今美鈴なんだろうか?それとも他の誰か? だって、足下を見ると、地面が近いのよ。私もうちょっと身長ある方だからさ? でも働いてるって事は、社会人な訳で。大人って事はもうこれから成長する事はないだろうし。って事は私の身長な訳ないんだよね。 鏡でもあれば違うんだろうけど…。 ……うん? そう言えば、違和感がない事が逆に不思議だったんだけど、ちょっとここおかしくない? 今会話している女性。目線が合わない。顔が解らないって言った方がいいのかな? 微笑んでいる事は解る。雰囲気でね? 私の姿だってデニムに企業名の入ったポロシャツを着ているって事は解るんだけど、その企業名はぼやけていて何て書いているか読めないし。 周囲だって、建物
「不快…?」 私が首を傾げると、優兎は顔を顰めた。 「気持ち悪いから可愛い子ぶらないで」 気持ち悪いとなっ!? わわっ、始めて言われたっ!? えっ!?どうしようっ!?ショック受けるべきなんだけど、ちょっと本当言われ慣れてないからホントちょっと何だけど嬉しい…。 「美鈴。お前少し喜んでないか?」 「バレた…?」 「…何気にお前、優兎にはドSだよな」 「んー………てへっ♪」 笑って誤魔化すとして、さて、どうしようか。 多分優兎何か使われてるなぁ。 そして使ったのは、そこにいる女、なんだろうなぁ…。 スッと目線が鋭くなるのが自分で分かった。 何でって?決まってるでしょう。 怒ってるのっ。 「…鴇お兄ちゃん」 「…どうしたい?」 「優兎くんを確保ーっ!!」 私が優兎くんを指さして言った瞬間鴇お兄ちゃんが動いた。 目の前の女を突き飛ばし、優兎くんが身構える時間を与えず即背後に回り手刀を首に入れた。 でも流石優兎くん。それだけで意識を失うような事はなく、鴇お兄ちゃんに反撃しようとするが。その優兎くんに戦闘技術を教えたのは他の誰でもない鴇お兄ちゃんとママだ。 師を前に弟子が技術で敵う訳もなく、あっさりと担ぎあげられてしまった。 「は、離せっ!」 暴れる優兎くんにビクともしない鴇お兄ちゃん。 最近思うの。鴇お兄ちゃんの身体能力ってどうなってるの、って。 思わず遠い目をしたくなったけれど、私は私で目の前の女をどうにかしないといけないからね。 『な、なんなのっ!?』 『優兎くんを返して貰う。ただそれだけですよ?』 ニッコリ。 これ以上ないってくらい綺麗に微笑んでやる。 すると、目の前の女は落ち着きを取り戻したのか、ふんっと鼻息荒くこっちを見た。 『返すですってぇ?優兎はぁ、私のぉ、大事な人なのぉ。だからぁ』 『あ、うるさいから黙って。私の大事な優兎に手を出したんだから、息の根止められる覚悟出来てるんでしょ?大丈夫大丈夫。即止めてあげるから』 『な、なぁんですってぇっ!?』 分かりやすく目を吊り上げて私に向かい手を振り上げた、その手を片手で防いでその厚塗りの化粧顔を思い切りひっぱたいてやった。 パァンと良い音がする。うん。手が痛いねっ。 『こ、このっ』 今度は反対の手を振り上げてきたけど、また防いでひっぱたく。
「鈴ちゃんっ」 葵お兄ちゃんが私のいるFIコンツェルンの役員室に飛び込んで来た。 「どうしたの?葵お兄ちゃん。優兎くんの居場所が分かった?」 優兎くんに仕込んでいたGPSは途中で捨てられたのか、壊されたのか、理由は解らないけれど、反応は途切れてしまっていた。 だから、別の方法で優兎くんの居場所を皆で探っていた…のだけれど。 葵お兄ちゃんがすんごく焦って飛び込んで来るもんだから、優兎くんの居場所が判明したっ?!と期待を…って、あれ? 何か反応が違う。 優兎くんの代わりに馬鹿がやらかした悪事を消して元の形に、何だったら前よりも少し良い感じに取り戻しているのを一旦切り上げて顔を上げると、葵お兄ちゃんがキョロキョロと何かを探していた。 「葵お兄ちゃん?」 「華菜ちゃんは何処にっ?」 「華菜ちゃん?華菜ちゃんなら隣の…」 秘書室にいるよ、と答えようとしてピンと来た。 「…何?葵お兄ちゃん。もしかして」 「そう。そのもしかして、だよ。一応逢坂くんに側に行って貰ったけど」 「……そう。ありがとう、葵お兄ちゃん。…鴇お兄ちゃん」 私はゆっくりと椅子から立ち上がると、鴇お兄ちゃんは直ぐに動いてくれて。 「こっちは問題ない。金山はそっちに向かわせておく」 「ありがとう。…華菜ちゃんの所に行こう。葵お兄ちゃん。あ、それから棗お兄ちゃんに、猪塚先輩の現在地分かったって伝えてくれる?戦力は多い方が良いからね」 「分かった。…鈴ちゃん?」 「?、なぁに?葵お兄ちゃん」 「…落ち着いてね?」 「ふみ?」 一瞬何を言われたのか解らなかった。 だって、私だいぶ落ち着いてるよ? 本気で分からないって顔してたんだろうな。葵お兄ちゃんがふっと苦笑した。 「…珍しいよね。鈴ちゃんがこんなに怒ってるの」 「ふみみ?」 「鈴ちゃんは本気で怒るって事、あんまりしないもんね。ここまで冷静に怒ってるのは僕も始めて見たかも」 「怒ってる…?」 「無自覚?」 尋ねられても、解らない。 でも確かに言われてみたら…私ずっと怒ってる、かも? 「……まぁ、怒って当然だけどね。優兎を攫われた訳だしね」 「だよね。…だけど、そうだね。こう言う時こそ冷静に、だよね?」 「え?あ、違うよ、鈴ちゃん」 「違うの?」 「うん。違う。僕はこう言う時こそ声を上げて良いと思
―――ガンッ!!「――うぐッ!?」殴られた頬に鈍い痛みが走る。 先程胸を蹴られた時から胸にも痛みが走る。あばらの一、二本は既に折れているだろうと思う。 『おい。程々にしておけよ。そいつはまだ使う駒なんだ』 『解ってっけどよー。なんつーか、俺達が家を追い出されてる間に、こいつがのうのうと幸せに暮らしてたかと思うと腹立って仕方ねーんだよ、なっ!』ガスッ!…痛いなぁ。 殴られる経験って一般的にそうないと思うんだけど、男に殴られるってこんなに痛いんだ。 「…はぁ」 ゆっくりと息を吐いて痛みを逃す。 殴られると思う度に、昔佳織さんが言っていた事を思い出す。 【どうしようもない理由があって殴られそうになった時は全身に力を入れて耐えなさい。そして反撃のタイミングを待つ。相手は絶対に力を抜く瞬間があるから、そこを一気に一撃で仕留めなさい】 急所は狙う為にあるのよっ! と堂々と教えられた時、美鈴ちゃんと華菜ちゃんはうんうん!と真剣に頷いていたけれど、僕は正直どう言う顔をしたらいいか解らなかった、な。 何時使うのその知識と思ってはいたけれど、…うん。本当に役立つ時が来るんだからビックリだよね。 『ちっ、こんだけ殴ってんのに顔色一つ変えないって。相変わらず気持ち悪い奴だぜ』 『顔だけは女みたいな癖にな』 僕を殴るだけ殴って互いに笑い合っている二人を見ていると、この従弟共は全く変わってないんだなとしみじみ思う。 …昔の僕だったら。 美鈴ちゃんに助けられずにあのままお祖母様を刺してしまっていたとしたら。 僕はこいつらのこんな小さな言葉にも傷つき苦しみ、そしてもしかしたらこの命すらいらないとまで思ってしまっていただろう。 【そんなのは許さないからねっ!私の目が黒い内は絶対に許さないからっ!】 脳内の美鈴ちゃんが激を飛ばしてくれる。美鈴ちゃんの目の色は黒じゃないのにと突っ込みをいれたくなる。 美鈴ちゃん、心配してるだろうなぁ。 鴇兄達も絶対心配してくれてるだろうし…。 そろそろ脱出の為に動かないとなぁ。 腕と足は縛られてるけど、殴られて体が地面に擦れる度に縛られた縄を緩めてる。取れるまでもう少し。 体が自由になるまでもう少し。どちらかと言えば、問題はここが何処かって事だ。 意識を失わされた間に連れて来られたとは言え、【僕(FIコンツェル
船の中。 シャワーを手早く浴びて 落下してからの一連の流れを説明したら。ヒョオオオオオオ…。羅刹の風が吹き荒れていた。 何故って?「…うちの可愛い子を誘拐した罪は重いわ」 「…そうだね。私の旦那さんの親友を誘拐して、何より私の親友を銃で撃って蹴り飛ばした…?万死に値するわ」 「まぁ、花崎さんったら。…でも、私もお付き合いしますわ」 「「「ほほほほほほ…」」」と言う事である。 後ろでお兄ちゃん達も怒っている。 樹先輩と猪塚先輩もどうやら攫われたらしいけど、そっちは…まぁ、あの二人だ。どうにかなる。 でも、優兎くんは違う。 優兎くんは、弱い所があるから。 「それで?美鈴。どうするつもりだ?」 「どうするって、当然取り返しに行くよ」 「犯人は仮面を付けていると言っていたが、お前の事だ。目星は付いているんだろ?」 「付いてると言うか、もう解ってる。自分でそれを言っていたからね。…売られた喧嘩は買うのよ」 「…成程?ならその喧嘩に絶対勝てるように、武器を持つ必要があるな。……必要か?」 言って鴇お兄ちゃんが取り出したのは、スマホである。しかもそれは…。 「必要だね」 「なら直ぐに名義を変更してやろう」 「ありがとう」 そのスマホは鴇お兄ちゃんが管理している私の【仕事用】のスマホ。 鴇お兄ちゃんはそれを手早く操作して、電話で指示を出した。 それに気付いた双子のお兄ちゃん達も動き出す。 そっちに関してはお兄ちゃん達に任せ、私達は優兎くんの居場所を捜索する事にする。 「華菜ちゃん。これを」 「……んんー?」 華菜ちゃんの手に私はもう一方のイヤリングを乗せた。 何も知りません、みたいな顔をしているけど…バレバレだからね? そして今はその事を詮索するつもりはないよ? 「もう一つを優兎くんの服に忍ばせたの。急いでGPSで探索して。服を脱がされたり感知器か何か使われたらバレてしまうから」 「っ!、分かったっ!」 取りだした愛用のノートパソコンを華菜ちゃんは手早く操作する。 逢坂くんも直ぐに華菜ちゃんに手を貸して二人がかりで探索を始めた。 「桃、巳華院くんも。悪いんだけど、今すぐ日本に帰ってくれるかな」 「何故ですの?私達もお手伝い出来ますわ」 「勿論、手伝って貰う為だよ。ごめんね、今はどんな手でも借りたいの」
※ 外伝第二章 御曹司ルートの第三十二話から続くお話です。ルート割れしておりますのでお気をつけてお読みください。「これっ、絶対に死ぬ奴じゃなああああああいっ!!」 全力で叫んだ所で状況は変わらないのよーっ!! 落下してますっ!落下してるんですよーっ! 一先ず気味の悪いクローンは体から引きはがして、蹴り飛ばす。 私が離れてもあっちが離れても問題はない。恐怖から離れられるならそれでいい。 発狂する前に離れられてホッとしつつ考える。 何を考えてるかって?勿論、生存方法である。 そもそもさぁー。ヘリから落ちるなんて体験普通にする人いなくなーい?いたとしても少数派だよねー。 「私落下経験多いよねー。その度に皆に助けて貰ってるけどさー。そろそろ自力でどうにかする術を覚えるべき?」 落下中だけど、空中で正座しつつ考える。 「美鈴ちゃんっ!!」 「へっ!?」 頭上から声が響いた。 ちょっと待ってっ!なんでっ!? 「優兎くんっ!?」 「美鈴ちゃんっ!手をっ!って、何で正座してるのっ!?落ち着き過ぎでしょうっ!?」 手を伸ばせと再度言われたので私は手を伸ばす。 すると優兎くんは私の手を取り、ぐっと自分を私の側に寄せて来た。 先に下に落ちてるのは私だからね。そこは優兎くんの方が体を寄せなきゃ追い付けない。 「何で優兎くんまで落ちて来てんの?」 「何でってっ、ほらっ」 優兎くんが指さした場所を見上げると、そこには落下しているヘリと落下している樹先輩と猪塚先輩が。 「もしかしてあっちもクローンが?」 「そう言う事。ただあっちは僕達三人しか乗ってなかったから、争った上でこうなったよ」 こう?とは、どう言う事? と問う前に、優兎くんが答えをくれた。 私の腰に手を回して、がっちりと捕まえてくれると、バンッと布の開く音が聞こえて体が上へと引っ張られた。 「もしかして、パラシュート?」 「その通り。暫く風に流されるだろうけど」 「それはまぁ仕方ないよ。命があるだけ恩の字ってね。ゆらゆら流されようよ」 「美鈴ちゃんってそう言うとこ、変に肝が据わってるよね」 「ふみー?」 「…まぁ、美鈴ちゃんだもんね。美鈴ちゃんも僕にちゃんと捕まっといてね。僕も離すつもりはないけど」 「了
それから、襲撃のある8日まで。私は、一日一回はあえて外出し、買い物をするようにした。と言うのも、お兄ちゃん達が、遭遇すると言う形を作りたいと言ったからだ。ゲームにより近づける為なんだって。私としてはお兄ちゃん達だけ危険な目に合わせるつもりは毛頭なかったから、即頷いた。むしろ一日一回で良いのかと聞き返してしまった位だ。けど余計なことをしてもまたお兄ちゃん達の計画を崩すだけだよねとちゃんと思い止まった。買い物をして、華菜ちゃんの家に帰って、華菜ちゃんのご家族の代わりにご飯を作って、パソコンを借りて一日分の仕事をして。これを数日繰り返した。…私、本当にこれでいいのかなぁ…?ちょっと不安に
「…美鈴?」声が聞こえて目を開くと、ママのドアップ。「美鈴。何をぼんやりしているの?早くその本を持って廊下に出てみなさい」そしてまたこのセリフ。私の手にはセーブの本。流石に二度も同じ事があれば、夢でも幻でもないって理解出来る。いや、元々夢の可能性は大分低かったんだけどね。そしてもう一つ、夢を否定するに思い至る理由がある。ここに、いつもママのドアップがあるこの時に戻る理由。こんな事現実的じゃないと思って、つい思考から排除してたんだけど…。でも…もう、そうとしか考えられない。私はやはり『手に持っていた』本を開いた。そこに書いてある文字は、私の文字。『ハートの意味が解らない。
私の視界は真っ暗闇の中。 ふっ。私を舐めないで貰いたいわねっ。 毎度毎度この真っ暗闇を見ていたら、もう分かるもんねっ! ズバリ、私は気を失っているっ!どやぁっ! ……。 ………。 ……………しくしくしく。全くもって威張れたことじゃないのよぅ…しくしくしく。 何で私はまた意識を失ってるのー…。 えっと…、私は何でこうなってるんだっけ?気を失う前は確か…。 確か私は旭と一緒に買い物した帰りに、旭に扮した表門の人に刺されてー…はて? そこから記憶がないと言う事は、私はあそこで気を失ったって事だよね? んで、今現在意識がない、と。そう言う事だよね? でも
※ このお話は本編である『乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…』の三十話から続くお話です。まだ本編をお読みで無い方はまずは本編からお楽しみください。「姫。この鎖主体のデザインと、薔薇主体のデザイン、どっちが可愛いと思う?」「んー…、私としては薔薇の方が可愛いと思うんだけどー…、遠目から見てどっちが可愛いと思う?大地お兄ちゃん」「鎖デザインのネックレスと、薔薇デザインのブレスレットー。成程。姫ちゃんが一番可愛いー」「俺もそう思う。姫さんが一番可愛い」「確かに。姫が一番可愛いな」「ちょ、ちょっと三人共っ、デザインの話でしょーっ。私は関係ないでしょーっ。